2014年12月20日 更新
フォーマルな場の礼装として、あるいは浴衣のように夏の気軽な装いとして幅広く活躍する「着物」。単なる衣服として身体を保護するだけではなく、染めや織りによる布の色合いや肌触り、独特の色調をあらわす襲色目(かさねのいろめ)など、日本古来の美意識を表現する役割も果たしています。
歴史
日本の民族服とされる着物の始まりは、平安時代にさかのぼります。894年に遣唐使が廃止されたことから、それまで貴族が身につけていた唐(当時の中国)風の衣服が、日本独自のものへと変化するようになりました。そうして誕生したのが、小袖を下着として袿(うちぎ)と呼ばれる上着を何枚も重ねた十二単や束帯です。
その後、武士が台頭して鎌倉時代が訪れると、動きやすさを重視するために十二単などの下着であった小袖がそのまま上着として着用されるようになりました。この小袖が、現在の着物の元になっています。
特徴
着物は、一枚の布を直線断ちした長着(ながぎ)を腰の位置で帯を結ぶことによって身につけます。身体のラインに合わせた型紙を用い、布を多数のパーツに切り出して仕立てる洋服と比べると、着物の構造は至ってシンプル。けれどもそのシンプルさゆえに成長や妊娠・出産などによる体型の変化に対応しやすいというメリットがあります。
また、広くゆったりとした袖口をとることで通気性を高め、袂(たもと)に物を入れるなど使いやすさも配慮されています。
着物に施す技法も多彩です。白い糸のまま布に織ってから、色柄を染め上げたものを「染め」、白い色を染めた後に布に織ったものを「織り」と言い、「染め」は縮緬(ちりめん)や綸子(りんず)、羽二重(はぶたえ)、「織り」は紬(つむぎ)、木綿、麻などが知られています。
着物は素材や模様、未婚・既婚の区別によって、さまざまな種類があります。主な種類の特徴を知ることで、TPOに合わせた着物の役割を知ることができます。
着物の主な種類
留袖(とめそで)
かつては女性が結婚すると、それまで着ていた振袖の長い袖を切って短くする習慣がありました。袖を短くした着物を「留袖」と言い、今では既婚女性の礼装になっています。
留袖は背中心、両胸、両外袖の5箇所に家紋が染め抜かれています。着物の上半身に模様はなく、裾部分に絵羽模様(えばもよう)という縫い目で模様が途切れない模様があります。地色が黒の留袖は「黒留袖(くろとめそで)」で、結婚式などで新郎新婦の母親や仲人婦人、親族の既婚女性が着用します。一方、地色が黒以外のものは「色留袖(いろとめそで)」と呼ばれ、こちらは未婚女性も着用できます。色留袖にあしらう家紋は5つとは限らず、三つ紋や一つ紋になることもあります。
振袖(ふりそで)
未婚女性の礼装で、長い袖丈が特徴。縮緬や綸子などの生地を用い、友禅染や絞り染めなど華やかな技法が用いられています。袖丈の長さによって呼び名が変わり、裾の長さと同じ「大振袖(おおふりそで)」は花嫁衣装や成人式に、それよりも少し裾が短く膝下程度の「中振袖(ちゅうふりそで)」は成人式や披露宴、お茶の初釜などに、太もも~膝あたりまで袖丈の「小振袖(こふりそで)」はパーティなどに適しています。
女性が着飾るイメージの強い振袖ですが、江戸初期までは子どもの衣服であり、男女関係なく着用していました。
訪問着(ほうもんぎ)
披露宴やパーティ、お見合いなどの席で活躍する訪問着は、色留袖の次に格式があるとされる着物です。縮緬や綸子などの生地に、縫い目で模様が途切れない絵羽模様が描かれています。
訪問着を簡略化した着物に「付下げ(つけさげ)」があります。これは訪問着のように絵羽模様ではなく、訪問着と比べると控えめな印象です。
小紋(こもん) パターン化された模様のある着物です。手書きとは異なり、量産が可能な技法のため気軽なおしゃれ着と言えるでしょう。会食や観劇などにおすすめ。
織りの着物(おりのきもの) 白い色を染めた後に布に織り上げた着物のことを「織りの着物」と言い、紬や木綿などがあります。これらの織りの着物は、買い物、旅行、街歩きなどの日常着として用いられます。
浴衣(ゆかた) 近年、夏のカジュアルな遊び着として人気の高い浴衣。もともとのはじまりは入浴時の湯帷子(ゆかたびら)で、江戸時代には湯上がりの衣服として人気を集めました。
喪服(もふく) 黒一色の黒喪服と、茶や灰、紫などの地味な色の色喪服の2種類があります。葬儀や告別式で着用するのは、最も格式のある黒喪服に黒共帯の組み合わせを。通夜や法事では、略式の色喪服を着用することも。
暮らしの中に着物を取り入れるには、どうすればよいのでしょうか。ここではお手軽に着物の魅力を楽しめるヒントを紹介します。
手持ちの着物がなくても、着物を着てみたい!という人におすすめなのが、着物のレンタルショップです。実際の店舗で着物を選ぶこともできますが、近所に店舗がない場合、インターネットで申し込んで、自宅へ宅配してもらってもOK。大抵は着物だけでなく、帯や肌襦袢などまでフルセットでレンタルできます。価格は着物の種類や日数にもよりますが、1日1万円前後~という場合が多いようです。
また、観光地にあるレンタルショップはレンタル料金に着付け代が含まれている場合が多く、着物を選んだらその場で着付けも行い、そのまま観光することもできます。着物を着ながら街歩きをすれば、いつもとは違った観光が楽しめそうですね。
近年の浴衣ブームによって、「着物デビューは浴衣で」という人が増加中。あなたも、浴衣姿で花火大会や夏祭りに出かけてみましょう。
デパートや専門店、ネットショップなどでは帯や下駄を含む初心者向けの浴衣セットが手頃な価格で販売されています。とは言え「浴衣を買ってみたけれど、着付けをどうしていいか分からない」と悩んでいる人が多いのも事実。身のまわりに着付けをしてくれる人がいればよいのですが、いなければ浴衣のレンタルショップや美容院などで着付けを依頼するか、ネット上の着付けの動画などを見て事前に練習することをおすすめします。また、着付け教室などでは浴衣初心者の人を対象に、全1回でマスターできる浴衣の着付け教室などを行っているところもあるので、問い合わせてはいかがでしょうか。
浴衣が着崩れてしまうようなオーバーアクションは厳禁。どうしても歩くスピードが遅くなってしまいがちなので、同行者にゆっくり歩いてもらうようお願いしましょう。履き慣れていない下駄は靴ずれを起こしやすいため、必ず事前に履き慣らしておくことが大切です。例え履き慣れていても、靴ずれ防止のために絆創膏を持参すると安心。
着物を着たら、着物姿が美しく見える立ち居振る舞いにも注意してください。
まずは立ち姿です。上半身の力を抜いて、背筋をスッと伸ばしましょう。この時、女性は両足を開いて立つと着物の裾が広がって着崩れの原因になるので注意。
歩く時も背筋を意識します。女性の場合、やや内またで普段より歩幅は小さめに、足をまっすぐ運ぶようにして歩きましょう。男性は腰から前に進むイメージで、足を外側に蹴り出すようにして歩くと堂々として見えます。
階段を昇り降りする時は、裾を踏まないように左手で荷物を持ち、右手で太ももあたりの衿下(上前の重なり合った先端部)を少しつまむようにします。何気ない仕草の一つ一つに気を配るだけでも、着物姿が美しく引き立ちますよ。ぜひお試しください。
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