住まいの終活の進め方
住まいの終活を始めるにあたって、具体的に何をすればよいか分からない…と悩む人も多いのでは。そこで、円満な相続のために行いたい準備や対策の手順を紹介します。思い出を振り返りながらコツコツ進めていきましょう。
1.自宅を今後どうしたいか考える
このまま住むか、住み替えるか。これからの家のことを検討
老後の住まいについて、今の自宅で最期まで過ごしたいという人もいれば、シニア向け住宅などへの住み替えを希望する人もいるでしょう。
これからの人生を見据えた計画によって、住まいの終活の内容は変わってきます。たとえばシニア向け住宅などへ住み替える場合、自宅を「売却する」、または手放さずに「賃貸に出す」といった選択肢が考えられます。
ここでは代表的な3つの選択肢を紹介しますので、自分のライフスタイルや家の状況、親族の意向(相続後に住みたい、遠方なので管理が難しい…など)も踏まえて検討しましょう。
【選択肢1】そのまま住み続ける
今の自宅を手放さず、終の棲家とする選択肢です。
自宅にそのまま住むメリットは、住み慣れた環境を変えずに暮らせることや、持ち家という資産を所有する安心感が得られることなどがあります。
デメリットとしては、メンテナンスなど維持管理の手間とコストが住んでいる限り発生します。また建物のバリアフリーが不十分だと、将来介護が必要になったときに不便を感じるかも知れません。必要に応じてリフォームをしたり、子世帯との同居の予定があれば二世帯住宅への建て替えなども検討しましょう。
【選択肢2】自宅を賃貸に出す
自宅を賃貸に出して、自分はシニア向け住宅などに住み替える選択肢です。
月々の家賃収入を得られるメリットがあり、さらに賃貸期間を定めた定期借家契約を結べば、亡くなった後に親族などが居住する可能性も残せます。
ただし、賃貸の入居者がつかなければ家賃収入が見込めない上、家賃滞納リスクといったデメリットもあります。さらに建物の状態によってはクリーニングやリフォームも必要です。
【選択肢3】自宅を売却する
自宅を売って、自分はシニア向け住宅などに住み替える選択肢です。
売却のメリットは、家を売ったお金を老後の生活費や住み替え費用に充てられることです。また、自宅を現金化することで、相続時に分配しやすくなるのも魅力です。
デメリットとして、立地条件などによっては売却が難しい場合があります。このほか、売却に時間がかかる点や、仲介手数料などの諸経費がかかる点にも注意しましょう。
2.所有する不動産リストを作成する
不動産に関する資料を確認し、一覧表に書き出していく
自宅や、自宅以外に所有する土地や建物などの不動産に関する資料を集め、リストに書き出します。
【不動産リストに記入する項目】
- ・所在地
- ・地番・家屋番号
- ・共有名義人および持分
- ・面積
- ・固定資産税評価額
- ・備考(隣地境界など、残された家族などに伝えたい事項があれば記入する)
※土地と建物の情報は別々に記入します。
※自治体サイトなどでダウンロードできる「エンディングノート」に書き込むとスムーズです。
土地や建物の所在地・地番・面積などは法務局で発行している「登記事項証明書」で確認できます。複数人で共有する土地や建物があれば、持分も書いておきます。
固定資産評価額は国税庁サイトで毎年7月に公表される「路線価」を記入します。
リストを作成することで、所有する不動産の情報の整理や、相続税額の試算などを行いやすくなります。さらに亡くなった後の相続手続きがスムーズになるので、残された家族などの負担を軽減できます。
3.財産の分割方法を考える
どの分け方にも一長一短があるので検討が必要
不動産をはじめとする相続財産の確認が済んだら、誰にどのような財産を相続させるかを検討します。その際の財産の分け方については、次の4つの方法があります。
(1)現物分割
不動産、現金、株式などの財産を、そのまま現物で相続人に分ける方法です。
シンプルで手続きも簡単ですが、平等な配分が難しく、特に不動産のように高額で分けづらい財産があると相続人間で不公平感がたまることがあります。
【現物分割のイメージ】
(2)換価分割
財産を売却して、その代金を分割する方法です。
換価分割は、不動産や株式といった分けづらい財産でも、現金化することで平等な配分が可能です。ただし財産の現物(自宅など)を手放すことになる上、売却手続きの手間や費用がかかります。
【換価分割のイメージ】
(3)代償分割
特定の相続人がすべての財産を相続し、ほかの相続人に代償金を支払います。
代償分割は、不動産のように平等に分けづらかったり、手放さずに残したい財産がある場合に選択される方法です。財産を引き受ける相続人は、代償金を支払うための資力が必要です。
【代償分割のイメージ】
(4)共有分割
財産を複数の相続人の共有とする方法です。
相続の際、自宅などの不動産をどうするかすぐに決められない場合に「とりあえず」の形で共有分割を選ぶケースは多いですが、売却や賃貸に出すときに共有者全員の同意が必要となり、意見が対立するなどトラブルに発展しやすいため、できれば共有分割は避けた方が無難です。
【共有分割のイメージ】
ちょこっとメモ!
財産を分けるなら「遺留分」に注意! 侵害すると遺言の一部が無効になることも
自宅などの不動産を含む財産を、現物分割によって相続人に分けようとする場合は、「遺留分」にも注意してください。遺留分とは、兄弟姉妹を除く法定相続人に保障される最低限の相続分のことで、配偶者・子・孫には法定相続分の1/2、父母には法定相続分の1/3の遺留分が認められています。
財産を残す人が、遺言書によって財産の分け方を自由に決められるとはいえ、遺留分の権利が侵害されている場合はその部分の遺言が無効になる可能性もあります。
特に自宅などの不動産は財産評価が高いため、特定の相続人に自宅を相続させるなら、ほかの相続人は預貯金や株式を多く相続させるなどしてバランスをとるようにしましょう。
4.相続税のルールや控除を確認する
控除や特例を活用して相続税対策を行う
「相続税」は、亡くなった人の財産を相続したときにかかる税金です。
残された身内にどれくらいの相続税の負担がかかるのか不安…という声も聞かれますが、国税庁の発表によると、2021年度に発生した相続のうち相続税が課税されたのは全体の9.3%程度。実は、相続税には「3000万円+(600万円×法定相続人の数)」という基礎控除があり、この基礎控除額を超えなければ相続税がかかりません。
【相続税の基礎控除額】
●相続税の基礎控除額の計算 |
---|
3000万円+(600万 × 法定相続人の数) |
法定相続人 | 基礎控除額 |
---|---|
1人 | 3600万円 |
2人 | 4200万円 |
3人 | 4800万円 |
4人 | 5400万円 |
5人 | 6000万円 |
基礎控除額までなら相続税はかからない |
基礎控除に加えて、亡くなった人の配偶者は相続財産が1億6000万円まで非課税になる「配偶者の相続税額の軽減」や、相続する自宅の土地の評価額を最大で80%下げて相続税額を減額できる「小規模宅地等の特例」といった制度もあります。これらの制度を利用できそうか事前に調べた上で、財産の分配を考えることが大切です。
※「配偶者の相続税額の軽減」「小規模宅地等の特例」については「もしものときに備える制度」で詳しく説明しています。
5.遺言書を作成する
遺言書を残せば、原則的に遺言書のとおりに財産を分けられる
「特定の誰かに財産を残す」など、相続に対する意思を表示したい場合は、遺言書を作成しましょう。前ページの「住まいの終活を始める前に」で説明したように、遺言書があれば原則として遺言書の内容のとおりに財産を分けることになるからです。
遺言書の作成方式は、大きく分けて「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があります。
(1)自筆証書遺言
遺言者が遺言の全文を自筆し、署名、押印して作成します。
自筆証書遺言は作成費用がかからず、自筆で手軽に作成することが可能です。作成した遺言書を自宅などに保管することもできますが、法務局に手数料を支払って保管してもらう「自筆証書遺言書保管制度」を利用すると、遺言形式の不備による無効や、紛失、第三者による内容の改ざん、死後に相続人が見つけられないなどのリスクを防止できます。
(2)公正証書遺言
遺言者が公証役場に出向き、2人の証人の立ち合いのもとで公証人が文書にして作成します。
作成費用として公証人に支払う手数料がかかりますが、法律のプロである公証人が作成するため無効になりにくく、家庭裁判所の検認も不要です。また、遺言書の原本は公証役場で保管されることから、紛失、第三者による内容の改ざんなどのリスクを防止できます。
(3)秘密証書遺言
遺言の内容を誰にも知られずに保管するためのものです。
遺言者は、事前に内容を記載した遺言書を公証役場に持参し、2人の証人の立ち合いのもとで自分の遺言書であることを申述して署名、押印して遺言書を完成させます。
公正証書遺言よりも公証人に支払う手数料は安く、パソコンでも作成できますが、遺言形式の不備による無効の可能性があり、遺言者の自宅などに保管することから、紛失、第三者による内容の改ざんなどのリスクがあります。
6.家財の整理、片付けをする
不要な物を処分してスッキリ、気持ちよく!
家の中にある家具や家電、食器や調理器具、衣服、雑貨、本や雑誌、そのほかのこまごまとした物で、不要と判断される物があれば片付けを進めておきましょう。
家財の整理は、次の住まいへ住み替える場合はもちろん、今の自宅に住み続ける場合も大切です。不要な物がゴチャゴチャとあふれている家は住みづらい上、自分が亡くなった後に残された家族などが片付けをしなければならず、その手間やコストが大きな負担となります。
不用品を処分するには、自治体のゴミ回収を利用するほか、業者に処分を依頼する、親しい人に譲る、フリマイトなどで売るといった方法があります。また、貴重品や思い出の品などはきちんと整理して保管しておきましょう。
まとめると…
住まいの終活でやることはさまざま。迷ったときは行政や専門家に相談を
住まいの終活で一つ一つの手順を進めていくことは、今までの人生を振り返りながら「楽しかった思い出」や「今後も大切にしたいこと」を明確にする過程でもあります。
1人では判断できないことがあれば、家族と話し合ったり、行政機関の窓口や、相続に詳しい専門家に頼ってみましょう。
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最終更新日 2024年12月02日
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