2023年度(令和5年)税制改正のポイントと暮らしへの影響は?
贈与税の見直し
子どもや孫の進学、結婚・出産などのタイミングに合わせて、生前贈与を検討している人も多いのでは。2023年度税制改正では暦年課税や相続時精算課税などの制度が見直されているので、これから贈与を予定しているなら見逃せません。
このページの見どころ!!
そもそも贈与とは…
自分の財産を子どもや孫などに与える行為を指す
「贈与」とは、自分の財産を無償で相手に与えることです。贈与を検討するキッカケとして多いのは、子どもや孫の進学、結婚・出産の資金を援助したり、所有している財産を減らして死後の相続税負担を軽減する相続税対策が目的というケースもあります。
・相続と贈与で税負担が変わる?
死後に財産を継承する「相続」では、相続する財産が基礎控除(3000万円+600万円×法定相続人の数)を超えると、相続税を支払わなければなりません。一方で、存命中に「生前贈与」を行うと一定の贈与税はかかりますが、控除や非課税制度を利用することで相続税より税金を安く抑えられる場合があります。
暦年課税と相続時精算課税
ひと口に「贈与」といっても、課税方法に違いがある
贈与税の課税方法には、「暦年課税」と「相続時精算課税」の2つがあります。
・暦年課税
年間110万円の基礎控除が設けられており、110万円までなら贈与税はかかりません。110万円を超えると、贈与額に応じた税率が適用されます(累進課税)。
暦年課税の税率は、直系尊属からの贈与を対象とした「特例贈与財産」と、直系尊属以外からの贈与を対象とした「一般贈与財産」の2種類があります。
【暦年課税の贈与税の速算表】
特例贈与財産(※)の場合 ※直系尊属(親や祖父母)から20歳以上の子や孫への贈与 | ||
---|---|---|
贈与額から基礎控除(110万円)を引いた額 | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | ― |
400万円以下 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 |
1000万円以下 | 30% | 90万円 |
1500万円以下 | 40% | 190万円 |
3000万円以下 | 45% | 265万円 |
4500万円以下 | 50% | 415万円 |
4500万円超 | 55% | 640万円 |
一般贈与財産(※)の場合 ※上記の「特例贈与財産」に該当しない場合の贈与 | ||
---|---|---|
贈与額から基礎控除(110万円)を引いた額 | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | ― |
300万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 |
1000万円以下 | 40% | 125万円 |
1500万円以下 | 45% | 175万円 |
3000万円以下 | 50% | 250万円 |
3000万円超 | 55% | 400万円 |
・相続時精算課税
2500万円の特別控除によって2500万円までの贈与は非課税となり、2500万円を超えた部分に一律20%が課税されます。また、贈与者が亡くなったときに、それまでに贈与を受けた金額と相続財産の合計が相続税の対象となります。
※相続時精算課税制度を利用できるのは、60歳以上の親または祖父母から、18歳以上の子や孫に生前贈与する場合に限られます。
※相続時精算課税制度を選択すると、以降は暦年課税制度に変更することはできません。
新制度はここが変わる
改正した点と、そのポイントを紹介
現行の課税制度と、2024年からの課税制度の違いは次のとおりです。
【暦年課税】
【現行】2023年までの暦年課税 | |
---|---|
贈与税の課税方法 | ・年間110万円まで非課税 ・110万円を超えた部分に、税率10~55%を課税 |
相続税の課税方法 | ・死亡前3年以内の贈与額を相続財産に加算して相続税を課税(納付済みの贈与税は税額控除) |
【NEW】2024年からの暦年課税 | |
---|---|
贈与税の課税方法 | ・年間110万円まで非課税 ・110万円を超えた部分に、税率10~55%を課税 |
相続税の課税方法 | ・死亡前7年以内の贈与額を相続財産に加算して相続税を課税(納付済みの贈与税は税額控除) ・延長した4年間に受けた贈与について、総額100万円まで相続財産に加算しない |
【相続時精算課税】
【現行】2023年までの相続時精算課税 | |
---|---|
贈与税の課税方法 | ・累積贈与額2500万円まで非課税、2500万円を超えた部分に一律20%を課税 ・暦年課税のような基礎控除はなし |
相続税の課税方法 | ・相続時には、累積贈与額を相続財産に加算して相続税を課税(納付済みの贈与税は税額控除・還付) |
【NEW】2024年からの相続時精算課税 | |
---|---|
贈与税の課税方法 | ・年間110万円まで非課税 ・累積贈与額2500万円まで非課税、2500万円を超えた部分に一律20%を課税 |
相続税の課税方法 | ・相続時には、累積贈与額を相続財産に加算して相続税を課税(納付済みの贈与税は税額控除・還付) |
・【暦年課税】相続時の加算期間が7年間に延長
これまで暦年課税制度で贈与を受けると、死亡前3年以内の贈与額については相続財産に加算されて相続税の対象となっていましたが、2024年からは、この加算期間が3年から7年に延長されます。ただし延長した4年間に受けた贈与額が総額100万円以内であれば、相続財産には加算されません。
【生活への影響は?】
2024年からの贈与は、死亡前7年以内の贈与額が相続財産に組み込まれることから、いわゆる「駆け込み贈与」が不利になります。節税のための生前贈与は、早めに検討するのがよさそうです。
・【相続時精算課税】110万円の基礎控除を創設
これまで相続時精算課税制度には暦年課税制度のような基礎控除はありませんでしたが、2024年からは、暦年課税制度の基礎控除とは別に110万円の基礎控除が設けられ、毎年110万円までは非課税となりました。また、相続時精算課税制度で贈与を受けた土地・建物が災害により一定以上の被害を受けた場合、相続時にその課税価格が再計算されます。
【生活への影響は?】
これまでの相続時精算課税制度は、贈与を受けるたびに確定申告が必要でしたが、2024年からは贈与額が年間110万円まで非課税となり、確定申告も不要になりました。
その他の贈与の非課税制度の改正
教育資金、結婚・子育て資金の贈与の非課税制度が延長に
贈与する相手や目的によって、贈与税が非課税になる制度もあります。
教育資金の贈与 | |
---|---|
非課税限度額 | 1500万円 |
内容 | 30歳未満の子や孫に、教育のための資金(入学費用、授業料、学習塾や習い事費用など)を 贈与した場合、贈与額が1人につき1500万円まで非課税になる |
期限 | 2026年3月末まで延長(3年延長) |
結婚・子育て資金の贈与 | |
---|---|
非課税限度額 | 1000万円 |
内容 | 18歳以上50歳未満の子や孫に、結婚・出産・子育てのための資金 (挙式費用、新居の賃料や引越し代、不妊治療費、妊娠・出産にかかる費用、 育児にかかる費用など)を贈与した場合、贈与額1000万円まで非課税になる |
期限 | 2025年3月末まで延長(2年延長) |
住宅取得等資金の贈与 | |
---|---|
非課税限度額 | 省エネ住宅:1000万円 その他の住宅:500万円 |
内容 | 18歳以上の子や孫に、住宅取得のための資金(住宅の新築、購入、増改築にかかる費用)を 贈与した場合、一定の省エネ性能を満たす住宅(省エネ住宅)は贈与額1000万円まで、 それ以外の住宅は贈与額500万円まで非課税になる |
期限 | 2023年3月末まで(延長なし) |
上記の3つは2023年3月末までの期間限定の制度でしたが、このうち「教育資金の贈与」は2026年3月末まで、「結婚・子育て資金の贈与」は2025年3月末まで制度の延長が決定しました。なお、「住宅取得等資金の贈与」は延長されず、2023年3月末までとなります。
まとめると…
制度の見直しが進む贈与税。これからは相続税対策が変わるかも?
政府は近年、相続・贈与にかかわる税負担を一定にして若い世代への資産移転をはかるために、贈与税の大幅な見直しに乗り出しています。2024年からの暦年課税と相続時精算課税の改正に加え、次年度以降も控除や非課税制度の見直しが行われる可能性があるので、贈与を検討中の方はしっかりとチェックしましょう。
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最終更新日 2024年12月02日
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