【専門家監修】不動産投資のデッドクロス対処法を解説!

2021年6月30日

不動産投資を行うにあたり注意しなければならない状態に「デッドクロス」があります。デッドクロスとは端的にいうとローンの元金返済額が減価償却費よりも高くなる状態です。ただし、不動産投資初心者だと、それだけの説明では、具体的にどのような状態をいうのか、どのような対策を取ればよいのかがわかりにくいことでしょう。そこで、この記事では、デッドクロスの内容や対処法について詳しく解説します。

デッドクロスとはどんな状態?

ここでは、「ローンの元金返済額が減価償却費よりも高くなる状態」を意味するデッドクロスがどのような状態を指すのかについて、具体例を挙げながらより詳しく解説します。まず、デッドクロスの状態を知るためには、減価償却費とローンの元金返済額についてきちんと理解しておかなければなりません。

・減価償却費とは

実際にお金が出ていないにもかかわらず毎年所得から差し引ける経費です。投資用不動産を購入した場合、購入した年に購入費用のすべてを経費計上するのではなく、決められた年数の期間中に分割して経費に計上します。

・ローンの元金返済額

不動産投資でいうと不動産投資ローンなどの借入金における返済額のことです。減価償却費とは異なり、お金が出ている事実があっても経費計上できません。

ローンの返済開始当初は、ローンの元金返済額を利息と減価償却費の合計額が上回り、経費にできない費用よりも経費計上できる費用のほうが高くなることが通常です。そのため経費計上できないローンの元金返済額は経費計上できる減価償却費と相殺して所得税を抑えられます。しかし、元利均等返済を選択してローンの返済を進めると、ローンの元金の割合が増える一方、利息の割合は減っていき、ローンの元金返済額のほうが利息と減価償却費の合計額よりも高くなります。そのため、所得税が増え、税金を差し引くとキャッシュフローがマイナスに転じてしまう場合があります。

たとえば、年間の家賃収入が60万円で減価償却費が50万円の物件に投資したとすると、他の経費を考慮しない前提で計算すると、利益は売上から減価償却費を差し引いた10万円、所得税が20%であれば税引き後の利益は8万円です。この物件の購入費として借りたローンの元金返済額が50万円の場合、減価償却が終了して減価償却費がなくなると、減価償却費を差し引けなくなるので利益は売上そのままの金額である60万円となります。そして、所得税は60万円×20%で12万円です。したがって、税引き後の利益60万円-12万円=48万円に対してローンの返済額が50万円かかるため、利益はマイナス2万円となります。結果として、経営は黒字でうまくいっているように見えてもキャッシュフローは赤字です。

デッドクロスはなぜ起こる?

デッドグロスを引き起こす主な原因は次の6つです。

・減価償却費が減ることで経費に計上でなくなるため

先でも解説したとおり、経費にできる減価償却費が減って、経費にできないローンの元金返済額のほうが高くなると相殺できなくなるため、経費計上できずデッドクロスの発生源となります。

・減価償却できる期間が短い中古物件を購入したため

建物は築年数が長いほど耐用年数が短いと評価され、減価償却できる期間が短くなります。減価償却できる期間が短いと、早くにローンの元金返済額が上回る状況となりやすく、デッドクロスが発生するタイミングを早めます。

・ローンの金利の返済割合が減ったため

ローンは金利部分については経費計上できますが、ただの借金である元金は経費にできません。経費にできる金利が減って経費に計上できない元金が減り、それに併せて減価償却費も減少するとデッドクロスが起こりやすくなります。

・ローンの返済方法として元利均等返済を採用しているため

ローンの返済方法には毎月定額で返済する「元利均等返済」と元金分の返済額が一定となるように返済する「元金均等返済」の2種類があります。不動産投資で利用する場合、元利均等返済を選ぶ人は少なくありませんが、元利均等返済は年々元金部分の返済額が増えていくことが通常です。そのため、元金均等返済と比べるとデッドクロスが発生しやすくなります。

・ローンの借入期間を長期で設定しているため

借入期間を、耐用年数を超えるような長期に設定することには注意が必要です。減価償却がなくなった後も借入金が残ってキャッシュフローが赤字状態となりやすくデッドクロスの発生リスクを高めます。

・家賃収入が減少したため

築年数が増え建物が老朽化したり周囲の環境が変化したりすると入居者が減り、家賃収入が減少してしまう場合があります。収入が減って収入よりローンの返済額が上回るとデッドクロスにつながります。

投資前にシミュレーションをしておこう

投資する際には、前もって減価償却費とローン返済額に関するシミュレーションを行い、具体的な金額の動きを把握してデッドクロスのリスクを予測しておくことが大切です。まず、減価償却額については投資物件の取得価額に償却率を乗じて計上し、ローン返済額はローン契約した金融機関から受け取る償還予定表を参考にして求めます。償還予定表とは元金や利息の内訳、今後の返済計画などが記載された書類です。さらに、投資期間中の収支を把握するために、不動産にかかる管理費や維持費を計算し、将来受け取れる家賃も予測しておきましょう。家賃については今後築年数が増えることで家賃収入が減少することも考慮しておかなければなりません。

シミュレーションは投資がうまくいったときのパターンや家賃収入が減ってうまくいかなかったときのパターンなどあらゆる状況を想定した複数のケースで行っておくと安心です。不安を感じるような結果が出た場合には、投資計画の再構築が必要となります。

デッドクロスの対処法1「回避する」

デッドクロスの発生を回避したい場合には次の2つの対策を取るとよいでしょう。

・投資中に減価償却費がなくならないようにする

具体的には、減価償却が終了する前に売却したり、鉄筋コンクリート造りといった構造上寿命が長いとされる建物や築浅物件など耐用年数が長い物件を購入したりする方法があります。売却する場合、保有期間が5年を過ぎたタイミングで行うと納める税額を約半分に減らせます。譲渡所得課税の税率は物件の保有期間が5年以下だと約40%、5年以上だと約20%だからです。また、新規に物件を取得し、その購入にかかる減価償却費を経費計上するのも手段です。

・ローンの返済額を少なくする

たとえば、自己資金を多く用意しておけば、そもそもの借入額を減らせます。そのほか、繰り上げ返済をするのも返済残額を減らす手段です。さらに、元金の減りが早い元金均等返済を選択すると総返済額を減らせます。

デッドクロスの対処法2「備える」

デッドクロスが発生してしまった場合の対策としては、次の2つの方法で備えておくとよいでしょう。

・資金不足が起こらないようにしておく

自分の投資物件における税金の支払額をシミュレーションし、デッドクロスの発生時に必要となる資金を事前に用意しておくと安心です。デッドクロスをそのまま受け入れる形にはなりますが、損得の勘定する間もなく慌てて売却しなければならない状況に陥ったり、資金繰りに苦労したりすることは避けられます。

・ローンの見直しも視野に入れておく

たとえば、借入期間を当初の契約より延ばせば、月々の返済額を減らして支払い負担を軽減できます。また、現状のものより金利が低いローンに借り換えすれば、総返済額を少なくできます。

ただし、このような方法を取ることも有効ですが、そもそも不動産投資を始める前に税務や金利に関する勉強をしたり経験を積んだりしておくことが何よりの備えとなります。たとえば、税務の知識があれば、青色申告で所得金額から一定税額を差し引ける税額控除を上手に利用して税金を減らせます。また、豊富な経験や知識があれば利回りのよいお得な物件も探しやすくなるなど、その時々に適切な対応が取れるようになります。

知識をもって賢く行動しよう!

デッドクロスは黒字経営にもかかわらずキャッシュフローはマイナスになる要注意な状態です。ただし、ローンの元金返済額が減価償却費を超えないようにすれば回避できます。また、仮にデッドクロスになってしまっても備えがあれば乗り越えることも可能です。デッドクロスはきちんと対策を取れば過度に恐れる必要はありません。上手に行えば安定した収入を得られる不動産投資は魅力的な投資方法であるため前向きに検討しましょう。

執筆者プロフィール

髙野 友樹
髙野 友樹様

公認 不動産コンサルティングマスター・宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士

株式会社 髙野不動産コンサルティング 代表取締役、株式会社 アーキバンク 取締役。
不動産会社にて600件以上の仲介、6,000戸の収益物件管理を経験した後、不動産ファンドのAM事業部マネージャーとして従事。
現在は不動産コンサルティング会社を立ち上げ、投資家や事業法人に対して不動産コンサルティングを行いながら、建築・不動産の専門家で形成される株式会社アーキバンクの取締役として、業界において革新的なサービスを開発・提供している。


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