【専門家執筆】不動産放棄制度が消費者に与える影響
2018年5月末頃、保有している土地の所有権を放棄できる制度について、政府が検討し始めているとの報道がされました。保有している土地は現在の制度では放棄はできず、不要になった場合には、不動産会社などを通じて売却することで、土地を手放すことになっています。政府はなぜ不動産放棄制度を検討しはじめたのでしょうか。また、不動産放棄制度が制度化されることにより、私たち消費者にはどのような影響があるのでしょうか。
不動産放棄制度とは不動産放棄制度がそもそも何かについて解説する
不動産放棄制度とは、「土地を相続したものの居住地と所有地が離れていて、活用や売却もできない」と考えている方などから、相談や管理委託などを受ける組織を新たに作るという制度です。政府は、新たな組織が不要となった土地の所有者から土地を保有して、土地活用やリースをしたり、土地の整形や合筆などを行い利用しやすい状態にして希望者に売却したり、国や地方公共団体に所有を打診して国有地や公有地にすること、などに組織的に取り組もうと考えています。
これが、不動産放棄制度と言われる制度であり、消費者から見ると不要な土地の所有権を手放すことができる仕組みとなります。そして、その受け皿となるあらたな組織の設置について政府が検討しているのです。
不動産放棄制度が検討された背景
わが国では、土地という不動産は先祖代々から引き継がれてきたものでもあり、当たり前のように相続によって土地の所有権を得てきました。相続した土地に住んだり、事業を行ったりしていれば、土地は大切な財産となりますが、昨今では、相続で土地を得る前に、通勤便利な都心などに不動産を購入し、所有権を得ても使われないケースが増えてきました。
所有権を取得した土地などの不動産が、不要となって手放すときには、不動産会社などを通じて、不動産を売却して所有権を移転することが一般的です。しかし、現在保有している土地の価値が著しく低いなど売却が困難となり、そのまま空き家や空き地として放置せざるを得ないこともあります。
さらに、「所有者不明土地問題研究会」の最終報告によると、2016年度地籍調査において、登記簿上の所有者の所在が不明な土地は全体の20.1%、面積にして約410万haあると記されています。不動産登記は義務ではないため、所有者台帳が更新されてなく土地の所有者の特定が難しかったり、所有者が特定できても所有者の転居先が不明だったり、登記名義人が死亡して相続人が多数となっていたり、共有地の場合、所有者台帳に共有者全員の名前が記載されていなかったりなどで、所有者が不明な土地は今後も増え、2040年には所有者不明土地面積は、約720万haになるだろうと予測されています。
自治体や企業が空き地を活用したいと考えても、所有者が不明であっては、土地を活用することができないため、所有者不明土地を増加させない社会を目指すという背景から、不動産放棄制度が検討されることになったのです。
一般消費者に与える影響:動産放棄制度が消費者に与える影響について解説する
この不動産放棄制度が制度化されることによって、不要な土地を所有している消費者は、土地の管理を行う必要がなくなるとともに、固定資産税や都市計画税を払い続けなくていいというメリットが生まれます。その一方で、土地の所有権を放棄するには土地の所有者が誰であるかを明確にしなければなりませんので、不動産の相続登記を行わなくてはなりません。先祖代々から引き継がれている土地などで、登記を変えていないと、誰が所有権を持っているのかなど時間をかけて調べなければならないこともあります。また、土地の所有者には、適切な利活用や管理を行う責務が課されますので、「使っていないし、売却できないから」と空き家や空き地のまま放置することはできなくなるでしょう。
さらに、土地を放棄するために、所有者が一定額を納めるという仕組みになるかもしれません。
まとめ
不動産放棄制度は、今後政府が取りまとめを行い、法務省や国土交通省にて具体的な検討が進められ、2020年までに不動産登記法や民法などの関連法を改正する方向で検討されています。制度化に向けては、登記とマイナンバーと紐づけや、登記と戸籍の情報の連携、所有者の情報を調べるシステムの構築などが必要となります。今までルールがなかった土地放棄の手続きを定めるのですから、消費者にも少なからず影響があることも考えられます。
出典:「所有者不明土地問題研究会」第4回(12月13日)最終報告公表
http://www.kok.or.jp/project/pdf/fumei_land171213_02.pdf
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