【専門家執筆】2019年10月に実施が予定される消費税増税は住宅購入にどう影響する?

2019年1月5日

ついに決定!2019年10月より消費税は二桁へ

経済的、社会的な影響から延期になっていた消費税の増税が、ついに2019年10月に実施されることとなり、現行の8%から10%と2桁の大台に乗ります。
思えば、2014年4月1日に5%から8%に増税したときは、不動産流通近代化センターが発表した2014年4月指定流通機構(レインズ)における成約報告のある取引事例のデータによりますと、首都圏の中古マンションの成約数は3月の3,994件と比べ、前月比-30.3%の2,785件という結果になり、首都圏の中古戸建住宅の成約件数も、3月の1,300件と比べて4月は1,002件と-22.9%減少したようです。
もちろん、増税を見越し、前倒しで取引された反動以外にも、もともと3月に比べて4月は需要が落ち込む季節変動要因などがあるのですが、消費税増税は仲介手数料の増加にしか影響がないはずの中古市場にもこのような大きな影響を与えました。
そこで年号も新しくなり、オリンピック次の年に迎え高揚感がある中で、来年の消費税の増税が住宅購入に与える影響について考えてみたいと思います。

いつまでであれば8%で買えるのか?

我々が日常的に購入する日用品は、一部にストックとして買いだめが行われますが、その大半は購入と消費がほぼ同時期行われます。一方、不動産は購入してから消費(使用)するまでが長く、特に注文住宅はその特徴が顕著であります。
完成品のマンションや分譲住宅については引き渡し時点を基準に考えればいいですが、注文住宅のような、建築請負契約を締結して、中間金を支払い、完成時に清算して引き渡しが終わってから、やっと購入者(建て主)が住めるような不動産はちょっとルールが違います。この場合、請負契約の締結日が重要になり、それが半年前の2019年3月31日までなら、増税前の消費税率が適用されるのです。
従ってまとめますと
・マンション、建売住宅は2019年9月30日までに引き渡しをうける
・注文住宅は2019年3月31日までに請負契約を結ぶ
ことができれば8%のままで済むのです。

すまい給付金や住宅ローン減税でカバーできる?

12月発表の税制大綱によれば、住宅の取得に関しては消費税の影響で購入が落ち込むとそのマイナス効果が景気に与える影響が大きいので、政府は住宅取得補助に関しては“手厚い”助成制度を打ち出しています。
その主なものと言えば「①住宅ローン減税の延長」「②すまい給付金の拡充」「③住宅エコポイント」の実施です。
特に住宅取得のメリットとして大きい①に関しては、年間40万円を上限に10年間で最大400万円の税額控除ができるのに加え、その期間を3年延長し消費増税分の2%を補う形で還付が受けられるようになります。
②については現在収入額の目安が510万円の人を対象に30万円の給付を行っていますが、775万円以下を対象に最大50万円が給付されるようになります。
そして③についても2015年で実施されたのを参考に、一定の省エネ基準を満たした住宅の購入やリフォームに対して付与していたエコポイントを、今度は耐震性や子育て世帯の家事負担を軽減するリフォームなどにも付与するようです。このような対策をみると、一見、増税の影響はなさそうにも見えます。

消費税引き上げ後には反動減が発生する?

しかし、住宅ローン控除についても税金が還付されるのはありがたいのですが、返ってくるのが11年目以降というのがポイントです。
例えば、仮に1万円の買い物をする場合を想定します。同じ商品を同じサービスで売っていますがA店はサービス料が8%です。一方、B店は10%なのですが11年目以降に3年間わたって2%分をキャッシュバックします。このA店とB店を比較した場合、我々はA店もB店も“サービス料は同じ”と考えるでしょうか?
一般的にはその店の信用力やら返済不能のリスクを考慮すると、「11年以降のキャッシュバック」というサービスに不安を覚えるので、商品などが全く同じなら迷わずA店を選ぶはずです。
国の信用力をこんなお店の例と同じにしてはいけないのですが「増税するといってもちゃんと11年目後以降に返します。だから安心して不動産を買ってください」というこの減税政策の本質はB店の方針と変わらないと思います。
現在は、シビアに国のリスクを判断し、10年後に還付されるお金は現在価値に直すとどうなるかきちんと計算する人も増えていると思いますので、思ったよりも購入支援としての効果が期待できず、やはり駆け込み需要の反動が起こるのは回避できないと考えられます。
その一方で、新築よりも中古を買ってリノベーションするトレンドが数年前から起こっていますので、一般個人が売り主である場合には消費税がそもそも課税されないという事実が浸透すれば、より中古不動産に注目が集まることが予想されます。
従って、消費税の増税は、新築住宅に関しては需要の減少は否めないですが、逆に中古住宅の市場の活性化に寄与する可能性があると考えます。

駆け込み需要に踊らされないこと

住宅の売買にはさまざまな手続きを要しそれらの多くに消費税がかかるとなると、やはりお得という点では増税前の購入の方に軍配があがります。
しかし、本当のところは住宅の価格は消費税のみならず、相続税などのほかの税制や建築資材価格の動向、金利や株価などにも影響されるので、実は消費税増税の前後だけで比較しても、そのほかの経済状態は一定でないので、ある意味比較のしようがないとも言えるのです。
大切なのは、住宅という一生に何度も買わない大切なものを、このような機会に情報を収集しながらも冷静にとらえて、「いつ」「どんな」物件を買うべきかを考えるべきだと思います。
住宅は自分のライフスタイルに合わせるべきものであります。従って、税制の改正前後で焦って選ぶのでなく、自分のライフスタイルをしっかり決めて、その後に良い物件に出会えたときが、まさにその人にとっての最適なタイミングになるのではないかと思います。

田井 能久様

田井 能久
田井 能久(不動産コンサルタント)
不動産鑑定士として25年のキャリアを持つ。訴訟や調停、並びに相続等の税務申告のための鑑定評価書の作成が得意。 最近はマレーシアを中心としたビザの取得と海外移住のサポートを通して、トータルな資産コンサルティングも展開している。

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