【専門家執筆】ふるさと納税で誰もが得するわけではない?寄付金控除との違いとは

2018年10月23日

「税金の控除が受けられる上に地方自治体からさまざまなお礼の品を自分で選んで貰うことができるお得な制度」として数年前から注目を集めている「ふるさと納税」。実は「納税」という言葉が使われていますが、厳密には「寄附」として取り扱われます。また「お得な制度」というイメージが先行していますが、実際は誰でも得をするわけではありません。ふるさと納税を利用するにあたっては、制度の仕組みや本来の目的を理解しておくことが大切です。それでは具体的にどのような仕組みなのか見ていきましょう。

 

寄附金控除とは?

ふるさと納税の仕組みを知るにはまず「寄付金控除」を理解しておく必要があります。寄附金控除とは納税者が国や地方公共団体、特定の法人などに対して寄附をしたときに所得控除を受けられる制度です。ただし、寄附をすれば必ず控除を受けられるわけではなく、対象となるのは「特定寄附金」に該当するものに限られます。例えば、学校の入学に関して行う寄附や、寄附をした人に特別の利益が及ぶと認められるものなどは特定寄附金には該当せず、控除の対象になりません。

控除されるのは「その年に支出した特定寄附金の合計額から2千円を差し引いた金額」です。したがって、1年間に合計100万円の特定寄附金を支出した場合は99万8千円が寄附金控除の金額になります。ただし、特定寄附金の合計額には「その年の総所得金額等の40%相当額」という上限があるため、仮にその年の総所得金額が200万円の場合、その40%に相当する80万円から2千円を差し引いた79万8千円が寄附金控除の上限になります。

寄附金控除は一部の例外を除いて「所得控除」になるので、控除額がそのまま還付されるわけではありません。たとえば年間10万円の特定寄附金を支出すると2千円を差し引いた9万8千円が「所得」から控除されます。仮に所得税5%、住民税10%とすると、実際に還付されるのは所得税から4,900円、住民税から9,800円となります。例外として政治活動に関する寄附金、認定NPO法人等に対する寄附金及び公益社団法人等に対する寄附金のうち一定のものについては、所得控除と税額控除を選択することができます。

なお、寄附金控除を受けるには確定申告が必要になります。その際に領収書等が必要になりますので、寄附をした団体などから忘れずに交付を受けましょう。

ふるさと納税とは?

ふるさと納税も前述の通り、実際は「寄附」として取り扱われ、上記の寄付金控除が受けられる仕組みになっています。ただし、ふるさと納税は通常の寄付金控除よりも大きな控除が受けられます。以下に記載しますが、住民税から特例分の控除が受けられることにより、ふるさと納税額のうち2,000円を超える部分について原則として全額の還付が受けられるのです。

所得税からの控除 = (ふるさと納税額-2,000円)×「所得税の税率」

住民税からの控除 = (ふるさと納税額-2,000円)×10%

住民税からの控除(特例分) = (ふるさと納税額-2,000円)×(100%-10%-所得税の税率)

※但し「住民税所得割額×20%」が上限

さらに、ふるさと納税は寄附をした自治体から特産品などのお礼の品がもらえます。実質2,000円の負担で豪華な返礼品がもらえる場合も多く、これが「お得な制度」と言われる理由です。ただし、最近は返礼品の競争があまりにも過熱しすぎたため、政府は制度を見直す方針を発表しています。返礼品ばかりが注目されがちですが、あくまでもお世話になった地域や応援したい地域への寄附という本来の目的を忘れないでおきたいものです。

なお、寄付金控除を受けるためには確定申告が必要ですが、給与所得者等がふるさと納税を行う場合、確定申告をしなくても寄付金控除が受けられる「ふるさと納税ワンストップ特例制度」が2015年4月から創設されました。この特例の適用を受けるにはふるさと納税先の自治体数が5団体以内で、ふるさと納税を行う際に納税先の自治体に特例の適用に関する申請書を提出する必要があります。また特例の適用を受ける場合は所得税からの控除はなく、ふるさと納税を行った翌年の6月以降に支払う住民税から控除を受けます。

ふるさと納税の注意点

ふるさと納税は「お得」というイメージが定着していますが、必ず得をするわけではないので注意も必要です。具体的なケースで見てみましょう。

年収300万円で専業主婦の妻と高校生の子が1人いるサラリーマンのAさんがある年に5万円のふるさと納税を行ったとします。

所得税からの控除 (50,000円-2,000円)×5%(所得税率)=2,400円

住民税からの控除 (50,000円-2,000円)×10%=4,800円

住民税からの控除(特例分) (50,000円-2,000円)×(100%-5%-10%)=40,800円

※住民税所得割額(48,000円)×20%=9,600円(上限)

特例分には「住民税所得割額の20%」という上限があるため、控除されるのは40,800円ではなく9,600円となります。そうすると、合計の控除額(還付額)は16,800円。ふるさと納税した50,000円のうち、33,200円は自己負担になります。このように必ずしも自己負担は2,000円で済むわけではありません。ちなみにこのケースでAさんが2,000円を除いた全額の控除を受けられるふるさと納税の上限額は11,000円となります。

※給与所得控除、基礎控除、配偶者控除、扶養控除、社会保険料控除(収入の15%と仮定)のみ考慮。その他控除含まず。

総務省のふるさと納税ポータルサイトには全額控除される上限額の目安が掲載されていますので、参考にしてみてください。

参考:総務省「ふるさと納税のしくみ」

http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/furusato/mechanism/deduction.html

また、寄附金控除の例外として税額控除を選択できる場合がありますが、認定NPO法人や公益社団法人への寄附は1年間の寄付金合計額から2千円を差し引いた金額の40%について所得税から税額控除が認められます(※)。仮にAさんが5万円をふるさと納税ではなく認定NPO法人や公益社団法人に寄附をして税額控除を選択すると、(50,000円-2,000円)×40%=19,200円の控除(還付)を受けることができます。ふるさと納税の控除額は16,800円でしたので、返礼品を考慮しなければこちらの方が多く還付を受けられることになります。

※都道府県・市区町村が条例で定めれば住民税からも最大10%の税額控除が受けられます。

まとめ

ふるさと納税は少ない負担で自分が応援したい自治体に寄附を行うことができ、自治体から贈られる返礼品を通じてさらにその地域の魅力を知ることができる制度です。自治体によっては、自分の寄附金の用途も選ぶこともできます。制度のメリットを上手に活用して、故郷や応援したい自治体に思いを届けてみてはいかがでしょうか。
執筆者プロフィール

長尾 真一様

長尾 真一
長尾 真一(ファイナンシャルプランナー)
教育資金、老後資金、万が一に備える保険など、生活に関わるお金の不安を解消し、未来に希望を持って暮らしていくためのお手伝いをする生活設計のコンシェルジュ。 確定拠出年金の専門家FPとして、中小企業のDC導入支援や投資教育講師として年間80回以上セミナー講師を務めているほか、高等学校や大学、専門学校等での講演活動にも注力しており、進学資金計画やキャリアプランに関する講演を数多く行っている。これまでの延べ聴講者数は1万人を超える。 趣味は航空会社のマイルやホテルのポイントなどを効率的に貯めてお得に旅をすること。

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