【専門家執筆】不動産の「おとり広告」はなぜ生まれるの?
不動産ポータルサイトなどで魅力的な物件を発見し、問合せをしたら、既にその物件が成約済となっていて代わりに他の物件を紹介された、という経験がある人は多いと思います。
しかし、その成約済の物件が、いつまでも掲載し続けられている不動産会社の広告を目にしたことはありませんか?
それは、過去に問合せが多かった人気物件を利用して集客を行なう不動産会社の意図的な『おとり広告』の可能性がありますので注意が必要です。
おとり広告はなぜ生まれてしまうのか?
おとり広告は、大別すると2つに分類されます。
一つは、成約済の物件の削除忘れ又は、タイムラグによる不動産会社の管理不十分(不注意)によるもの。
もう一つは、意図的に取引できない物件、又は、取引する意思がない物件を掲載する悪質なケース。
近年、ほとんどの不動産会社では、不動産ポータルサイトに数多くの物件情報を掲載して集客しています。
当然、成約済の物件情報は、掲載から削除しなければなりません。
実は、不動産会社が掲載している物件情報の多くは、他の不動産会社や管理会社から情報提供を受けた“仲介物件”がほとんどです。
不動産会社は、あたかも自社だけの物件情報のようにポータルサイトへ掲載していますが、成約済の確認をする際には、物件ごとに元付の管理会社や不動産会社に電話をして在庫確認しなければなりません。
そのため、数多く物件情報を掲載すればするほど、成約済み物件の在庫管理が行き届かなくなり、成約済みにもかかわらず、いつまでも掲載し続けてしまい、その結果、『おとり広告』として当局から指導される不動産会社も少なくありません。
逆に意図的に成約済み物件を掲載し続ける。または、実際には、存在しない魅力的な条件の物件を掲載している悪質なおとり広告を掲載している不動産会社は、ごく一部ですが後を絶ちません。
意図的に行なう悪質なおとり広告は、地方よりも競争が激しいエリアにある賃貸不動産会社で比較的多く見られます。
各事業者が行っている取り組みとは
健全な不動産会社は、成約済の物件をポータルサイトに掲載し続けることのないように定期的に在庫確認を実施して掲載情報を更新しています。
近年では、物件の在庫確認を行なう専門担当者を採用している会社が増えてきています。
しかし、人手が少ない中小の不動産会社では、専門担当者を設置できず営業マンが片手間でポータルサイト掲載物件の在庫確認をしているのが現状です。
首都圏不動産公正取引協議会が2017年1月から行っている規約違反事業者への罰則とは
近年、おとり広告は、不動産業界だけの問題でなく社会問題としてメディアでも取り上げられています。
公益社団法人首都圏不動産公正取引協議会では、2017年1月より、不動産ポータルサイト5社(アットホーム、CHINTAI、HOME’S、マイナビ賃貸、SUUMO)と協力して、おとり広告を撲滅する取組みを行なっています。
おとり広告などの悪質な広告を行なった不動産会社に対しては、公益社団法人首都圏不動産公正取引協議会から違約金や厳重警告などの処分だけでなく、不動産ポータルサイト5社全ての広告掲載を原則1ヶ月以上停止する措置を実行できるようになりました。
多くの不動産会社では、ポータルサイトを利用しなければ集客ができません。
ポータルサイト5社の全てを1ヶ月以上利用できないという罰則は相当な抑止力として期待できます。
過去にあった「おとり広告」の事例と罰則
過去にあった悪質なおとり広告では、成約済となってから6ヶ月以上に亘って継続して広告していたケースがありました。
この不動産会社は、他にも取引内容の不当表示として、最寄り駅からの徒歩所要時間について、実際よりも2~3分短く表示もしていました。
この悪質な不動産会社には、公益社団法人首都圏不動産公正取引協議会から厳重警告・違約金の措置が下されました。
また、おとり広告は、ポータルサイトだけに限ったことではありません。
不動産会社の店舗の窓ガラスに貼ってある物件情報も、既に成約済となっていても人気物件で集客効果が高いという理由から掲示し続けているというケースも少なくありません。
まとめ
消費者にとって『おとり広告』をズバリ見抜くことは困難かもしれません。
しかし、賃料や価格が極端に安くて、誰もが注目するような物件にもかかわらず、いつまでも広告が掲載されている場合は、何らかの安い理由があるはずと思うべきです。
おとり広告で問合せをして、ご自身の名前や連絡先などの個人情報を、不動産会社へ伝えてしまったら、その会社の思うつぼです。
そのような物件を見つけたら、おとり広告かもしれない…と一度冷静になって、まずは、安い理由を確認すると良いでしょう。
消費者側も『おとり広告』というものが、少なからず世の中に存在すると認識して物件探しすることにより、悪質なおとり広告に振り回されずに済むでしょう。
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